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窓越しが、スキ


会わないヒトがいます。
もう会わないヒトがいます。
物理的には会えないわけではないけれど
なんとなく、会わないヒトがいます。
少なくとも、約束を取り付けたりしては、会わないヒトがいます。
大切なヒト。
何人かいます。


彼らとはメールやら電話やらで
気紛れに気休めに連絡をとります。

モノを介したこみゅにけーしょんは
ゴム越しの愛のようにキレイで理性的です。
あたしはいとも鮮やかに
誘い、委ね、茶化し、響き、

無意味な駆け引き。
それはどこにも行き着かない自己充足型のトキメキです。


似たようなことは、電車の窓越しにも起こります。

暗い暗い窓。
景色はぼんやりと闇に侵食されながら超高速で流れ去ります。
疲れきった一日を締めくくるのは大抵そんな電車で、
あたしはひんやりとしたドアに身をなるべく寄せます。


そんなとき。
それは唐突に始まるのです。


夜の暗さが透明だった筈の窓をいつしか鏡のようなものに変え
外の風景に重ねたように、いくつもの顔が浮かびます。
そのいくつもの知らない顔の中
あたしはあなたを選びます。
あなたもあたしを選んだりします。

偶然かも必然かも
どちらかのふりをしているだけかも
でも、とにかく。
あたしたちは目を合わせるのです。
ドアの傍のあたしと、つり革を持ったあなた。
その距離は見知らぬあたしたちにとっては相当なもので
見知らぬあたしたちの間には
何人ものやっぱり見知らぬヒトたちが団子状に連なります。

けれどそのヒトたちを飛び越えて
誰も気付かないよう、そう、窓越しに
あたしたちは恋のゲームを始めます。
合わせてしまった目をどちらから逸らすのか。
駆け引きは始まります。

大丈夫。これは窓越しだから。
あたしたちはいつだって、
外の景色を追っていたと、
最初から見知らぬヒトとなんて目なんか合わせてないと、
そう、いつだってこんなにも自然に言い訳できる。

理性的な言い訳が周到に用意されているのをいいことに、
あたしたちはささやかな無茶をします。
極めて冷静に
あたしたちはしばらくじっと見つめあいます。
駆け引きを、目で。
絡んだ視線はどこまでもリアリティがなく、
同時にどうしようもなくあたしを挑発します。


理性的な欲望も、
乾いてて、簡単で、大人で、楽で、
たまには、イイものだと思うのです。

降りていく知らないあなたの指にわざと触れたいと
手を伸ばし、だけどやっぱりやめる。

階段に向かう姿を明るいホームで
また透明になった窓越しに見て、
もう、会わないんだ、と思うのが
なんともまた刹那的で

揺れる電車の中
取り残されたあたしは独り
笑いを噛み殺し密やかな悦びに浸るのです。

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November 13, 2003 5:01 PMに投稿されたエントリーのページです。

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