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噛むのが、スキ

だだっ広い、世界の果てまで見渡せそうな雄大な草原。

あたしはひどく苦手です。

一人ぼっちただただ滑らかに広がる大地の真ん中に立つと、
あたしは、もう、どうしようもなくなってしまうのです。
まずは皮膚が、そして終には燃えきるはずのない頑丈な骨まで
あたしを構成する全ての細胞、分子、そう、なんでも

その全てが、
「あたし」というようやく集まった一つの身体から
遊離していってしまう感覚に陥るのです。


何とか止めなきゃ、繋ぎ止めなきゃ、
必死にそう思います。
せめて大声でめちゃくちゃに叫べたら、と思います。
声に出して引き止めれば、少しは、、少しは、、


こんな気持ちになるのは、
なにも草原の真ん中に立ってるときだけじゃありません。
巡る日々の中、黒い渦は、いつだってすぐそこにあります。

そんなとき、あたしは声なんてあげません。
無用に注目は集めません。
その代わりに噛みます。
噛みます。
噛んで、その拡散を止めるのです。


それは唇だったり、小指だったり、人差し指の側面だったり、ときには手の甲だったりします。
噛んでてあまりにも不自然なポーズにならないところがいいです。
噛むと言っても、痕が残ったり、ましてや血がでたり、そんな自傷行為は要りません。

必要なのは、その甘い痺れだけ。
甘く、優しく、切なく、際限なくあたたかく。

そう、それはどこか、
ライオンの子が母親に優しく噛まれるときの感じかもしれません。


それともそう、それはどこか、
天国のような匂いのフトンの中で、
誰かに首を絞めてもらったときの感じかもしれません。

甘い痺れは、
もう一度あたしという人間と世界との境界線を教えてくれます。
その甘さは快感となり、
あたしは全てを忘れ少しずつ内側に溶けます。
だるくだるくあまく。
痺れているのは痛いからか夢だからか。
わからなくなってほっとします。

そしてあたしはそうやってほっとすると、
そう、
いつだって少しだけ泣きたくなってしまうのです。

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November 5, 2003 4:58 PMに投稿されたエントリーのページです。

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