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口癖が、スキ

初めて自覚したのは
多分ジェニファーのときだと思います。


5歳で突然異国の地に放り入れられたあたしにとって
ぽっちゃりした外見を裏切らない寛容の見本のようなジェニファーは
数少ない貴重な友達でもあり、また会話モデルでもありました。
ジェニファーとばかり居たあたしにとっては
ジェニファーの英語が世界標準だったのです。
彼女の一語一語は無意識にあたしの会話用テキストとして記録され、
いつしかあたしの口は。
ジェニファーとそっくりに機能するようになっていました。


ヒトに指摘されてようやく気付いたその現象は。
なんだかひどく嬉しかったことを覚えています。
彼女の国のコトバを手に入れて。
あたしはようやくジェニファーの世界に属せたのです。
ある意味で。
彼女の一部があたしになったのです。


そしてあたしたちは実にたくさんのことをその同じコトバで喋りました。
あたしたちは美味しいチョコの話を、ママの小言の話を、近所の猫の話を、新しくできた視聴覚室の話を、ナルニア王国の話を、州名を暗記する便利な歌の話を、プラスチックブレスレットの新しい編み方の話を、図工用糊を何故かいつも食べてしまうクリスの話を、ちょっとだけスキだったアレックスの話を、

あのころのジェニファーの口癖を明確に思い出すことは、もう、できません。
でも確実に。
今あたしの喋る英語の一部は
ジェニファーなのです。


日本語は英語ほどそう影響力はありませんが、
それでもあたしはヒトの口癖がうつる方だと思います。
うつってしまうのか。わざとうつるのか。
最近では最早よくわかりません。
でも多分。
キミの口癖は、わざとうつってるのだと思うのです。
注意深く真似て。
できればいつまでだって忘れないで。
知らぬ間にあたしのコトバにしてしまいたいのです。


そうすれば一時の自己中心的な盛り上がりで
「パッショネイトってこういうことね」と
諸々を燃やして割って流して壊して捨てて吐いて剥いで裂いて斬って


だとしても。


キミのコトバは多分。
そんなあたしを嘲るようにもうすっかりあたしのコトバになってしまってて。
届かないところで静かに勝手に居座り続けるのです。
ぱっしょねいとなんて届かなところで。
静かに。
あるいは気紛れに
鈴の音のような微かな頭痛と
射るような光を想起させる耳鳴りを引き起こしながら。


そしてまた。
きっとあたしの口癖はキミにもうつって。
あたしの口癖がキミの口癖になって他のキミの口癖があたしの口癖になって前のキミの口癖があたしの口癖でそれがキミの口癖になって他のキミの口癖になってるころには前のキミの口癖はアノコの口癖になってアノコの口癖は他のキミの口癖になってキミとアノコの口癖は他のアノコの口癖があたしの口癖かもしれなくてキミの口癖はあたしの口癖で。

ところで。


手癖が悪いと言いますが。

口癖が悪いとは言わないのでしょうか?


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December 14, 2004 5:43 PMに投稿されたエントリーのページです。

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